君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「きゃっ……冷たっ……！」


高い悲鳴が響く。彼女の胸元がシャンパンで濡れて、射るような目で私を睨んでいる。


「すみません……」


あなたが足をかけたんでしょう？という問いは心の中にしまっておいた。


「この人、わざとやったんです……！」


周囲にアピールするように声高に叫んで涙を流す。可憐で華奢な雰囲気の彼女が肩を震わせると、「まぁ……」と避難するようなため息が漏れた。私のような体の大きな女は加害者にしか見えないだろう。


「さっきからこの人不審だったものね……」


「初めて見る顔だわ。どこの家のかたかしら？」


周囲の白い目が広がっていき、罪人のように私を取り囲んだ。


「今すぐ帰って！樫月家のパーティーにあなたみたいな人は不似合いよ」


どうしたらいいだろう。澪音は会場の遠くで話をしていて、声をかけようもない。


勝手に帰ったら彼はきっと困るよね……。


「不愉快な思いをさせてしまったらごめんなさい。わざとではないんです。転びそうになってしまって」


バイト先で身につけたクレーマー対応と同じように頭を下げると、髪飾りの銀の葉が揺れてシャランと音をたてた。


彼女は激昂して髪飾りをつかんで引っ張る。


「何よ、これ見よがしに自慢して！」


痛っ……という悲鳴はぎりぎりで押さえた。騒ぎを大きくしてはいけない。


「彼女は頭を下げただけよ。自慢に見えるのはあなたが嫉妬しているせいね」


鈴を転がすような美しい声がして、髪飾りを引っ張る女性をそっと押さえる白い手が見えた。


「かぐや様……」


顔を上げると、お伽噺のお姫様がそのまま現れたような美しい人が微笑んでいた。


この人こそ、まさに月の光のよう。澪音が奏でるクロード・ドビュッシーの曲を思い出した。
< 13 / 220 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop