君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
砂糖菓子のような愛くるしい女性は、外を見上げて何か話している。女性の方は何を話しているのか見えなかった。


澪音も女性の視線と同じ方を向いて、多分二人で月を見上げているようだった。私も振り返って同じ月を見上げると、綺麗過ぎて涙が出た。


「今日はちょうど満月なんですね」


泣いてるのを誤魔化すために、杉崎さんに意味のない話をしたつもりが涙で詰まって上手く言えない。


澪音の前の女性が何かを言うと、澪音は少しだけ困ったように笑って、アーモンド型の大きな瞳が穏やかに細められた。あの表情は私も良く知っている。澪音のああいう顔は私だけに向けられるものじゃないんだ……当然といえば当然のことなんだけれど。


「柚葉さん、彼のために悲しむ必要はないですよ。

こんなことは、樫月澪音のただの日常だから。あなたに会う前にああやって別の女性と会っていることも多いんじゃないかな。

あなた一人を愛する気なんてさらさら無いんですよ。だから、悲しむよりは怒ったほうがいい」


そんなことを言われても、心がついていかない。胸が抉られるように痛いだけ。


「あの場に踏み込んで修羅場を演じる?」


杉崎さんの提案に力無く首を振った。そんなことをしても無駄だし、何を話していいか分からない。


澪音の目の前の女性が、感極まったように涙を流した。ぐっちゃぐちゃの顔で泣いてる私とは対極のような、綺麗な涙。


澪音はジャケットからハンカチを取り出して、涙をそっと拭き取った。優しい目をして女性を見つめ、何かを話していた。


「『あなたは……愛している……は、きれい』……」


「柚葉さん、もう止めなさい」
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