君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
生まれながらの勝ち組?


杉崎は誤解している。俺にとっては諦めと敗北こそが最も慣れ親しんだ感覚である。


柚葉の恋人に相応しくないと言うが、そもそも俺が何かに相応しかったことなど今まで一度もない。


幼少の頃は、型破りなほど優秀な兄を前に俺の存在は黙殺されていた。樫月の本業に俺は不要であり、音楽で功績を立てなければ居場所は無かった。


しかし、そのピアノですら俺には特別な才は無い。

世界中から神童の名を欲しいままにした音楽家が集まるウィーン国立音大では、俺のピアノは所詮金持ちの道楽だろうと相手にされなかった。


足りないものを補うように鍛練を重ね、周囲の評価などどうでもいいと思うようになった頃、少しずつ結果が出始めた。

結局、国際コンクールの成績は2位止まりなので、ピアノにおいても俺は栄光とは無縁である。


そして、今。


一年前から飛び込んだビジネスの場で、まがりなりにもトップとしてやっていくために死に物狂いで知識を詰め込んだ。


半年を過ぎた頃から旧態依然とした組織運営が気になり始めたが、俺には組織を変える力は無かった。

知識は努力でどうにかなるが、経験や実績が不足しているのは否めない。急に運営に加わった俺を周囲がどう見ているかは考えるまでもない。


血筋だけの飾り物。

お前の指図など受けないという、声なき声を聞く。


例えば、古参の幹部との会談で。あるいは、側に控える秘書が見せる表情に。


俺をこの場に引き込んだ父ですら、嘆息と共に俺を見ていることは知っている。


始めは父の敷いたレールを歩くだけの飾り物で構わないと思っていた。諦めの中を淡々と歩むことだけが俺の特技であり、それは非常に楽な道だった。


しかしそんな俺が、どうしても諦めのつかない願いを見つけてしまった。
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