君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
Stage.11 フレデリック・ショパン エチュード op10-3
有坂柚葉は久し振りに手元に戻った携帯プレーヤーを片手に、澪音のピアノを聞いていた。


澪音の曲を返して欲しくて杉崎さんに電話をかけたけど、何回かかけても繋がらなかった。


クロスカフェで会ったときに返して貰うしかないかと思っていた頃、何故か執事の茂田さんが携帯プレーヤーを手渡してくれた。


「どうして、これを?」


「ご親切な方が届けて下さったようですよ」



杉崎さんが直接ここまで届けてくれたのかな。経緯は分からないけれど、この音楽を再び聞けるようになって本当に良かった。


澪音が私にくれた、最高の贈り物。


この先どんな恋をしたって、これはきっと私の生涯の宝物だ。


あれから澪音と顔を会わせる機会もなく、年末年始は実家に帰省していた。帰省は実家まで送迎するというのが茂田さんの出した条件だった。


「保安上の理由です。ご了承ください」


と言われたけど、これまでと違って明らかに管理されている気がする。大きなリムジンで実家のそばまで送られて、家族に見られたら何と説明しようかヒヤヒヤした。


今は樫月邸に戻り、茂田さんの認めた外出以外は出歩くこともできない。茂田さんはバイトも辞めて欲しそうだったけれど、それは必死に説得して続けさせて貰っている。


早くここを出ていかないと駄目だ。生活に不自由はないけど、窮屈な日々。


目を瞑って音楽に浸っていると、控えめなノックの音がした。


「柚葉、いるのか?」


「澪音……」


澪音に会うのは一週間ぶり。

でもまだ顔を見ただけで、ぐちゃぐちゃに感情が乱れる。澪音は外出先から戻ったばかりのようで、上品なスーツには私が贈ったマフラーが巻かれていた。


「頼みがある。躍りを見せてくれないか?」
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