君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「それに『周りは綺麗で』なんて卑屈なことを言うな。

俺は柚葉にずっと目を奪われているし、綺麗だと伝えてきたつもりだ。言葉でも、音楽でも、抱き合ったときも。

それが全部素通りしていたと思うと悲しい。」


澪音が真顔で淡々とそう言うので、胸が苦しくて、顔が熱くなった。


「躍る君は綺麗過ぎて、困るんだ」


「……そういうお世辞は、臆面もなく言わないでください、澪音の周りには美人な人がいくらでもいるんだから」


「お世辞? 違うよ、俺にとっては切実な問題だ。

本音を言えば、誰にも君のダンスを見せたくない。

何故俺の恋人の、そんなにも綺麗で官能的な姿を観衆に晒されなきゃならないんだ」


「いやっ……でもこれセクシー系の躍りじゃないですし、そもそも私に色気とかないし」


澪音は困った顔で「これだけ言っても自覚無しか……」とため息をついた。


「自分でも矛盾してると分かってるが、踊る君が好きなのに、人前で君が踊るのを想像すると苦しい。

だから、柚葉のダンスを前提にした曲も作れなかったし、今まで柚葉のダンスを見るのが怖かった」


「え……そういう理由だったんですか……?

樫月家にとって、私のダンスが邪魔だからじゃなくて……?」


澪音は私の呟きに首を傾げる。


「家は柚葉のダンスとは関係無いだろう?」


「ええと、でもこういうダンスは上品な樫月家にはそぐわないからって……」


「家の人間がそんな勝手なことを言ったなら謝る。」
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