君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
呆気にとられて澪音をぽけっと見ていると、驚くような言葉が続いた。


「芸術と官能はすぐ隣り合わせだと思わないか?

ダンスは人前で踊るのが前提だと分かってはいるが、本当はさっき見せた柚葉の表情、美しい姿は俺だけのものにしたい。

あんな顔を見せておいて、柚葉はあまりにも無自覚で、無防備なんだから」


澪音は抱えた片膝に顎を乗せて、私には理解が追い付かない不満を言った。


「私にはそんなアーティスティックな感性はないから、イマイチ感覚が分からないんですが……」


「そうか? 例えば俺には柚葉を抱くのと、柚葉のためにピアノを弾くのは直接的か間接的かの違いしかないように感じるんだが」


「え? えぇ……!?」


今もスピーカーから流れている澪音の曲。優しくて心地よいメロディーも、そう言われて聴くと何だか気恥ずかしい


『官能』なんて、私の語彙にはない表現だけど、澪音にとってはピアノもダンスもそのカテゴリになっているらしい。


「あんな姿を見せられて、柚葉が愛しくてしょうがない。

しかも今は柚葉に触れることすらできないからもどかしさが募るばかりだ。いい加減助けてくれないか?」


澪音がソファから私を見上げる。澪音と私の距離は2メートルくらい。そういえば、ずっとこの距離間を保って話したことなんて無かった。
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