君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
かなり前に「触らないで」と言ったことを今も守って、澪音は私から距離をとって話していた。


そういう思い遣りも、澪音が私にかけてくれる言葉も優しくて嬉しいけど。


でも、あの女の人にも同じように優しくしているんだと思うと、澪音の表情や言葉にいちいちドキドキする自分が悲しくなる。


「もっと澪音とこういう話をすれば良かったですね、ダンスについても、音楽についても。

澪音の考えてることを教えて貰えば良かった」



「過去形で語るなよ。

今からでも、遅くはないだろ」


澪音の言葉に首を横に振った。


あの時、遠くから見た澪音の唇は確かにあの人に「愛している」と告げていた。


愛していると言う相手も、キスをするのも、この音楽を聞くのも全部私だけが良いと言っていたのに。


こんなにも優しい態度で、平気で嘘をつく澪音が許せなかった。でも、もっと許せないのは、それでも好きだと思ってしまう自分自身。


「もう、遅いです。

澪音、そろそろ私をここから出してくれませんか?」


「ずっと考えてたけど、柚葉がそんなに頑なになる理由が、俺にはさっぱりわからないんだ。」


澪音の眼差しは切実で、まるで私が一方的に澪音を傷つけてるみたいで。


「澪音にそんなことを言える資格があると思いますか?私はこれでも……」


その時ノックの音がして、殆ど同時に扉が開けられる。その人は大股で突進するように歩いてきた。


「かくや……!」


「ごきげんよう、澪音。

相変わらず忙しくしているようね。ご歓談中悪いけれど、柚葉さんは借りていくわ」
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