君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
かぐやさんがタブレットをぽんと投げると、澪音が顔をしかめた。


「かぐや、いつもながらやり口が卑怯なんだけど。この資料、昨日にはできてたはずだよな」


「ふふ。周到と言って。

さぁ柚葉さん、あなたはこっちよ」


「え?……ちょっと待って……」


私の抵抗も虚しく、今はかぐやさんと二人きりでサンルームにいる。紅茶まで飲んで、表面上だけは優雅な時間が流れた。


「……柚葉さん、マナーとはつまり何かしら?」


ノリノリでマナーの講義を始めたかぐやさんに、「澪音と結婚なんかしたくないから要りません」とは言えず……。


「思いやり……ですかね」


茂田さんに教えて貰った通りに答えを返した。


「教科書通りの答えね。私に言わせれば0点よ。

マナーとは鎧よ。その場に相応しい行動の原則を知っていればどんな相手にも意外とハッタリがきくのよ」


「なんか戦ってるみたいですね」


ちょっと物騒なかぐやさんの説明に苦笑いする。


「実際戦ってるのよ。私達が初めてお会いしたパーティーで、あなたはどうしようもない女に攻撃されていたでしょう?」


思い出した。あの時は知らない女の人に足をかけられたんだっけ。

……助けてくれたかぐやさんはとても綺麗で、まさかこんな闘争心の塊のような人とは思わなかったなぁ……。


「柚葉さんがオドオドしてるからナメられるのよ。だからあなたはマナー、本式にはプロトコールと言うのだけど、その鎧を纏わなくてはね。

あなたが弱い分、澪音に余計な負担を増やしてるのだから」
< 161 / 220 >

この作品をシェア

pagetop