君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
テーブルに広げられたのは、何枚かの写真。一番上にあるのは、パーティーの時にバルコニーで私を抱き寄せる澪音だった。

頬と頬を合わせて優しい笑顔を浮かべているところや、見つめ合っているところ。

まだ、出会って間もない頃の私たち。

澪音の表情は柔らかいのに、私の顔はこわばって不格好だ。この時は恋人代行で、澪音を好きにならないように自分に言い聞かせていたっけ。


その次の写真は料亭での澪音だった。澪音と知らない女性がグラスを合わせて笑顔を浮かべている。この前見た人とは違っていた。

涙を流す女性を心配そうに見つめる澪音。女性が澪音の背中に追いすがるように抱きついて、表情を曇らせている様子。この写真、かぐやさんから話を聞いてなかったら絶対誤解してたなぁ……。


……まじまじと写真を観察した後で我に返った。


「これを、マスコミにリークするって仰いました? これではまるで澪音の女性スキャンダルでも起こしたいみたいですけど」


「他の女と遊ぶ写真を見ても動じないところは流石だな。まさに舞姫さんの言う通りだよ。

澪音も財界で少しは顔が売れたようだし、経歴からいってもマスコミ受けするからな

財閥の御曹司の女遊びなんて、いかにも大衆が好みそうな醜聞だろう?」


私には、含み笑いを浮かべる澪音のお父様の考えていることがさっぱりわからなかった。


「どうして、ご子息を陥れるようなことを?樫月家にとっても悪影響が出るのでは……」


「澪音個人にとってはそうだろう。しかし樫月には大きなダメージにはなるまい。

この父に逆らうということがどういうことか、信用を失い、恥をかきながら澪音が学べば良いのだ」
< 170 / 220 >

この作品をシェア

pagetop