君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
澪音が店のピアノを弾いていた。見間違える筈もない、凛とした横顔。


トレイを落としそうになるけど、余計な雑音を出したくないから必死でキャッチする。


どうしてここでピアノを弾いているの?


カウンターに座る女性客二人にデザートを運びに行くと、二人とも澪音のピアノにうっとりとしていた。


「見て、あのピアノ弾いてる人カッコ良すぎるんだけど!演奏も素敵だし……」


「ねっ!ヤバイって!!何だか音までセクシーな気がするっ。聞いてるだけでドキドキしない?」


「あはは何それ、欲求不満!?

……って思ったけど、何かわかるー。雰囲気が微妙にエロくて最高。ずーっとピアノ聞いてお酒飲んでたいね。

こっち向いてくれないかなぁ」


聞いてる私が赤面しそうな会話をしながら、二人とも顔は澪音の方に固定されたままだ。


澪音はリズミカルで華やかなジャズを弾いていて、私も彼女達と同じように澪音の演奏にドキドキしていた。


心臓の音がうるさくて、ピアノが聞きづらくなるからどうか静まってと胸を押さえる。


「はい、これ。澪音に持っていって」


オーナーがこれまで通りに澪音にペリエを持っていくように私に言った。


「オーナーの意地悪……」


にこっと笑って厨房に帰るオーナーは、私の不平なんて受け付けてくれない。
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