君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
翌日にオーディションの最終日を控えたその日、クロスカフェに杉崎さんが来た。


「明日は頑張ってと言いたいような、言いたくないような微妙な気持ちだけど。

でも柚葉さんの目標なら、やっぱり頑張ってきてほしいかな」


杉崎さんは、私がオーディションに落ちたらウィーンに付いていくと言ったのをしっかりと覚えている。


「お仕事なのに、変な居候が居ても良いんですか?」


「座敷わらしみたいでいいんじゃない? 柚葉さんが家に居たら福が来るかも」


「座敷わらしって相当な子供扱い……」


「だって女扱いしたら君が困るでしょう?」


急にいたずらっぽい笑顔でそうを言われたので「うっ、ええと、はい……」と言葉を詰まらせる。


「どっちにせよ、結果は教えてくださいね。体調にはくれぐれも気を付けて」


杉崎さんが帰ってほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、背後から煌めくようなピアノの音が聞こえてきた。


澪音は今日もお店に来たんだ。



それにこの曲……。


この曲は澪音が作った曲に違いない。確信を持って言えるけど、それがわかるのは私だけだ。


今まで聞いたことのない曲だけど、謎解きのヒントのように澪音が作ったワルツのメロディーが少しだけ混ざっていたから。


ステップを踏みたくなるような可愛いメロディーと、全体を引き締めるベース音。明るくてエネルギッシュで、これまでの澪音の曲とは少し違うかもしれない。
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