君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
仕事をしながらも、食い入るようにピアノを聞いているうちにその演奏は終わった。


もう一度じっくり聞きたい……。

私の知らない澪音の曲、どうしたらもう一度演奏してくれるの?



最近では、澪音は『サイレントピアニスト』なんて呼ばれて、多くの女性ファンが彼の演奏を聞くために店に通っている。


曲の終わりと共に、澪音は次の演奏をリクエストされて珍しく困った顔をしていた。



「『恋するフォーチュンクッキー』お願いしてもいいですか?」


澪音は首を傾げて携帯で曲名を検索している。


この曲が流行っていた頃は多分ウィーンにいただろうし、澪音は日本のアイドルの曲には疎いみたいだ。これまでのお客さんならジャズか有名な洋楽のリクエストばかりしていたから、私もこんな場面は初めて見る。


これでいい?というように携帯を見せて、真面目にアイドルの曲を聞いて確認していた。


やがて、ハッピーで女の子っぽくって、全く澪音らしくない曲が聞こえてきて思わず笑ってしまった。知らない曲を一度聞いただけですぐにお店に馴染むようにアレンジしてしまうのは凄いけど、澪音がアイドルの曲を弾いているのはやっぱり面白い。


「ねぇ見た?可愛いくない!?この曲知らないなんて信じられない!でも困った顔が素敵過ぎて、また惚れちゃうんだけどっ!」


「もう、マミったら近くでケータイまで見せてもらったなんて、羨ましい!どんなだった?良い匂いした?」


若い女の子が黄色い声を上げてはしゃいでいる。その様子に、自分でも理不尽だと思いながら少しだけムッとして、「本気で好きになったらだめなんだよー」と心の中だけで忠告を送っておいた。


私はもう、澪音と話すこともできない。いっぱい酷い事を言ったし、澪音との接触は禁じられてるから。
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