君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「駄目ですっ……こういうのは、困ります」


「その程度の抵抗は、俺を煽るだけだよ」


澪音は私の反応を面白がるように笑う。ウエストに絡められた腕の力が少しだけ強くなり、肩に顎が乗せられた。


「ん……

柚葉は俺のオアシスなのかな。こんな場所ですら、柚葉が隣に居ると心が休まる」


「……っ」


首にかかる息を感じて体が熱くなった。私の方は、全く心が休まる隙がないというのに。


その時背後で氷がカランと控えめに揺れる音がして、振り向くとグラスが二つ置かれていた。


「綺麗な色のお茶ですね。ハーブティーかな、いい香り」


腕を解いてグラスを持つと、澪音はやれやれというように小さくため息をついた。


「俺、お茶に負けるか……

随分嬉しそうだな」


「澪音もいかがですか? 気疲れすると喉も渇きますから」


グラスを差し出すと、


「君に飲み物を手渡して貰うと、ここだけ『クロスカフェ』のようだな。

これはこれで癒される」


そう言って笑って、グラスを傾ける。


「澪音、また踊ってくれませんか? ……ほら、アップテンポの曲に変わりました。

私を澪音の恋人っぽく見せるなら踊るのが一番です。

それに頭の中を空っぽにして体を動かすと、スッキリしますよ」


「君はダンスのことを話してるとき、一番良い顔で笑うんだな」


澪音に差し出された手を取って、今度は何曲も続けて踊った。


「俺は踊るより弾く方が好きだけど、柚葉とならダンスも悪くない」


ペアダンスは、言葉を介さないコミュニケーションのようだ。会話しているわけではないのに、ちょっとした気遣いや動きを感じ取って、お互いを少しずつ理解していく気がする。

私は澪音の心地よいリズムを感じながら、どうかこの時間が、彼にとって束の間の休息になりますようにと願った。
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