君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
涙を流してうつむいた私の頭をぐいっと持ち上げて、弥太郎さんが唇を動かす。


「したをむくな まえをむけ」


続きは携帯画面で綴られて、文字を追うごとに胸が苦しくなった。

『お前を庇ったのは澪音の意思だ。お前のせいではない。

それに澪音がお前を庇ったのは、そんな顔をさせるためではない。泣くな。』


「でも私は澪音に庇ってもらう価値かなんか無いんです。」


『それは澪音が決めることだ。

馬鹿のくせに自分の判断を絶対だと思ってるのか?』


「確かに私は馬鹿ですけどっ……

でも、今は私が正しいんです。私はもう澪音と何の関係も無いし、凄く澪音を傷付けて出ていったから。

私に優しさを向けてくれても何の意味も無いのに……!」


「それが、ばかだといっている」


呆れたような顔で見られて、おまけに頭をぺしっと軽く叩かれる。弥太郎さんの携帯に何か連絡が入ったようで、付いてこいと手招きされた。


関係者外秘の扉を弥太郎さんがカードキーで何枚も開けて、澪音のいる部屋をノックした。


「兄さん、忙しいからここまで来ていただかなくても良かったのに、すみません。

軽い怪我なんですが警察の介入があって余計な時間を……



え、柚葉!?」

澪音は左手に包帯を巻いていたけど、病室のテーブルで仕事でもしていたようでベッドに寝てすらいなかった。


「澪音、手は大丈夫なんですか……?」


「柚葉が今ここにいたら駄目だろう!オーディションは何時からだ!?」
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