君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「そんなのとっくに終わってますし、どうでもいいんです!怪我はどうなんですか!?」


「見ての通り……ただの切り傷。三針縫っただけ。直前まで演奏してたから多少出血して、鉄分のサプリメントを処方された程度だけど……。

もしかしてずっとここにいたのか?」


クロスカフェの制服を来たままの私を見て、澪音が動揺していた。でも私には彼の怪我が軽く済んだことで安心しきって、他に気を回す余裕は残ってない。


「良かった……。本当に良かったです。

一晩中手術でもしてるのかと思ってたから……!大変な事になったらどうしようって……。


……ぅうっ……良かった……うわーん……」


ひとしきり涙を流した後に、きっと横で安心しているはずの弥太郎さんにも声をかける。


「澪音が何ともなくて……本当に良かったですね」


しかし、弥太郎さんは全く無感動な様子で口を動かす。


「それはしってた」


「え!?」


『澪音から全治一ヶ月もかからないと連絡を受けてたからな』


携帯画面でそう伝えられて、私はまたも弥太郎さんの言葉に脱力した。


「知ってたなら言って下さいよー!

さっきの待合室での会話!!あの感じは絶対に私を騙してましたよね?」


『それは違う。怪我の程度は只の結果だ。

もっと重大な怪我だったとしても、俺の言うことは変わらない。澪音の怪我でお前が責任を感じるのは間違った認識だ』


弥太郎さんには私を労ろうなんて気遣いは何もなくて、でも、だからこそ強い意志が伝わってきた。


「そうですか……」


私と弥太郎さんの会話を聞いていた澪音が、タイミングを待っていたように口を開く。


「兄さん、せっかく来ていただいたところ申し訳ありませんが、柚葉と二人で話をさせてもらえませんか?」
< 191 / 220 >

この作品をシェア

pagetop