君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
澪音の言葉に、それはマズイと我に返る。


「澪音の容態が分かれば私はもう用はないので、そろそろ失礼しま……」


「急にどうした?そんなに慌てなくても良いだろう」


「でも、ええと、ほら

私は澪音とは終わっているし、……好きじゃないし、むしろ嫌いだし」


「……嘘をつくなら、せめて一貫して嘘をついてくれないと。これ以上は騙されるフリも難しいんだが」


澪音が笑っている。笑いかけるというより殆ど笑いを堪えているような様子に、私は思わず口を尖らせる。


「さっきからずっと涙を流して、こんな場所で徹夜して、大事なオーディションまで棒に振って。

急に嫌いだから帰ると言われても、話が通らないだろ。

店でピアノ弾いた時点で柚葉の気持ちは分かってたんだ。そろそろ、観念して理由を言ってくれないか?……その、訳の分からない態度について」


優しい澪音の声に、しかし私は首を横に振ることしかできない。


「澪音の思い違いですよ……」


弥太郎さんが澪音に何か伝えているけど、手話なので私には内容が分からなかった。


「見舞い品の代わり……?音声ファイルを確認すれば良いんですか?」


澪音がテーブルのノートパソコンを開いて何かの音声を流した。



『……そういうのは困ります!そんなつもりでお話ししたワケじゃないですし』

……


急に自分の声が流れてびっくりする。

コレは何?
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