君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
『……出ていけと言っている。今後一切澪音に近付くな』


澪音のお父様の声が流れて、あのときの会話の録音なんだと気が付いた。


お父様と私の取り引きを知ったら、澪音がどうするかなんて分かりきってる。だからこれは澪音に聞かれたら絶対に駄目なのに!


再生を止めようとしてパソコンに手を伸ばすと、弥太郎さんに阻まれた。


「お願いっ、離して!!」


「おまえはなにもわかってない」


弥太郎さんは片手で軽々と私を拘束すると、器用にも空いている手で携帯に文字を打つ。


『お前はまだ澪音を知らない。澪音の力を知らない。この程度に屈する男だと思って付き合ってきたのか?侮るなよ』


私と弥太郎さんが話している間にも音声の再生は進み、澪音は微動だにせず聞いている。


『……でも、澪音は私を必要としてくれてるし、私もそうなんです。澪音のことを愛しています』


叫ぶような私の声が聞こえてくる。これだけでもいたたまれないのに、弥太郎さんが追い討ちをかけるように


『恥ずかしい奴』


と笑った。


やがてお父様が、澪音の写真をマスコミに公開すると言っている声が流れて音声は終わった。


弥太郎さんが私を抱えていた手を離すと、手話で澪音に何かを話している。


澪音は一度だけ慌てた様子を見せたけど、弥太郎さんは笑って私を指し、私には何の説明もないまま帰っていった。



「……父のこと、すまなかった」
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