君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
制服のリボンに手がかかったので、慌てて止める。


「待って、ここ病院ですよ……」


「当家のプライベートエリアだから、殆ど家と変わらない」


澪音は私の顔のすぐ横に手をついた。目が合うのが恥ずかしくなって顔を横に向け、その手を見る。長く綺麗な指と、薄い手の甲。巻かれた包帯が痛々しい。



…………あれ?



「待ったぁああー!!」


色気の欠片もない叫び声を上げて、その左手を持ち上げる。


「血が滲んでるじゃないですか!

これじゃ、治るものも治りませんよ!」


「そんなことか、これくらい問題ないよ」


「さっきまでこの包帯真っ白でしたよね?

すぐに診て貰わないと!」


「嫌だ。今は誰にも邪魔されたくない」


「もうっ、子供みたいなこと言わないでください。傷が塞がるまで、こんなことは無理です」


手を伸ばしてナースコールを押して、澪音が驚いている隙にベッドにから抜け出す。


「柚葉、さっきまであんなに俺を煽ったくせに、この仕打ちは酷いな」


「煽ってないです……それは澪音の方が……」


顔をしかめた澪音が渋々襟を正し、私のリボンまで結び直してくれる。そのうちに看護士さんが駆け付けて、私は部屋の外で処置を待った。
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