君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
* * *


「……父が言っていたことを気にする必要はないよ。父の持つルートに手を回せばいいだけだ。

今後、似たようなことがないように対策は打っておくから」


私たちは病院の近くのカフェに場所を移して、さっきの話題について改めて話した。カウンター席に隣り合って座り、澪音の横顔を見上げる。




澪音は手の処置が終って病室から出ると「柚葉に妨害されるなら、二人きりの部屋にいるのは却って辛い」と、むーっとした顔をしていて。

幼く見えるほどむくれた表情は久しぶりだったので、可愛くてつい笑ってしまった。


でも今はお父様の話題になり、澪音には次期当主としての顔が垣間見える。


「お父様に逆らうようなことをして、大丈夫ですか? 無理してませんか?」


「それは元々だから良いんだよ。父と俺は仕事のスタンスの違いで、今は多少距離があるんだ。

さっきの音声は茂田が録ってくれたらしいんだけど……」


あの執事の茂田さんがそんなことを。


温厚なじいやっぽい雰囲気なのに、こっそりと録音……というか殆ど盗聴だけど……をしていたなんて驚きだ。


「茂田は、父への忠誠心と柚葉や俺への配慮で板挟みになって、兄さんに相談したそうだ。

俺が決断を先送りにしていたから、柚葉や茂田にまで迷惑をかけてしまった。もう引き伸ばすのは限界だな」


「決断って?」


「当主交代だよ。

父を不本意な退陣に追い込むようで踏み切れなかったんだが、今回のことは良い教訓になった」


澪音は静かな瞳で、何の気負いもなくそう言った。

私が澪音と出会ったとき、澪音は樫月家を「くだらない」と投げやりに呟いていたのに。


あれから数ヵ月で、澪音は知らない間に変わっていた。


「出会った頃の澪音とは、何だか別人ですね。

……どんどん遠い立場の人になっていくみたい」



「違って見えるのは、柚葉が俺を変えたからだよ」
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