君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「私ですか? 私は何もそんなことは。

ただ、澪音を好きになっただけで……」


「ははっ。いいなその言葉は。

俺も同じだ。柚葉に恋をしただけ。柚葉と一緒に過ごしたいと願っただけ。

柚葉を幸せにできる男になりたい。俺が少しだけ変わった理由は、ただそれだけなんだよ」


テーブルの下でそっと手が握られた。全く予期してなかったので顔が真っ赤になってしまい、不自然な角度になっているのにも構わずに顔を逸らす。


「私は少しも澪音に相応しい女の人じゃないのに」


「そんなことはないよ。あの父にあれだけ言い返せるのは、なかなかできることではない。

意外と驚くほど胆が座ってるんだな。怖い思いをさせて悪かったと思うけど、正直、あの会話を聞いて惚れ直した。

格好良かったよ。」


繋いだ手の指先が絡んで、ビクッと肩が震えた。こんなことですぐに動揺してしまうほど私は気が小さいから、胆が座ってるという澪音の言葉は過大評価だと思う。


「それは、かぐやさんとか茂田さんの講義のおかげなんです。言葉遣いとか、喧嘩の仕方とか」


「喧嘩の仕方って」と澪音が笑う。その後、思い出したように言葉を加えた。


「ひとつ、言い訳しないといけないことがある。柚葉が父に見せられた写真には多分、俺が柚葉の知らない女性と食事してるものが混ざっていたと思うんだが」


「……あの場所、神楽坂にある『たまき』っていうお店ですよね」
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