君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「知っていたのか? 父が進める数々の縁談を片っ端から断っているんだが、思ったより時間がかかるんだよな。

気分のいい話ではないから柚葉には伏せていたんだが」


「写真を見たときには、かぐやさんから話を聞いた後だったので知ってました。

でも、何も知らずに現場を見たときはショックだったなぁ……。一緒に月を見上げて、いかにも初々しい恋人同士って雰囲気で」


澪音が目を見開いている。


「ずっと態度がおかしかったのはそのせいか。気が付かない俺も迂闊だったな……」



「そーですよー。言っときますけど断ってるようになんて、ぜーんぜん見えませんでしたからねっ!」


あのとき見た光景を思い出して、大人げなく不貞腐れる。


「それは、ヤキモチ?」


澪音はクスクスと笑っている。澪音のように天然で女性を虜にするような人に、私の引け目なんて分かる筈ない。


「だってあれは、口説いてるとしか思えませんよ?」


ハンカチを取り出して、泣いてもいない澪音の目の縁をぽんぽんと押さえる。


「『愛している……綺麗だ……』」


ちょっと低い声に変えて言ってみた。少しだけ困ったように笑って、優しく涙を拭く素振りをする。


「ん?それは何だ?

凛々しくて可愛いな。もう一度やって見せてくれ」


はしゃぐように笑う澪音を、じとーっと白い目で見返した。


「何って、あのとき遠くから見えた澪音の真似ですよー。思い出すと悲しくなるからもうしませんよっ」
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