君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「あの人、プロのピアニストなんですよね?」


とオーナーに聞くと、


「彼についての情報は言えないんだ。彼との約束でね」


と、困ったようにごめんと言われた。


「名前も?」


「うん、名前も。

でも直接本人に聞く分には良いんじゃない?」


「それは無理!

緊張して話し掛けられないですよ!

……やっぱりピアノをたまに聞けるだけでいいや」


と誤魔化そうとすると、オーナーが笑って


「彼に興味があるの?」


と聞いてくる。


「全然っ! ぜんぜんそんなんじゃないんですけどっ。

……まあ格好いいなとは思いますけどっ

あの人のピアノで踊れたら素敵だなと思って……」


その時、フロアのお客さんから注文の声がかかり、会話はそれきりになった。


ここは、『クロスカフェ』という名の飲食店。昼はカフェ、夜はダイニングバーのような形態になっている。


私はダンサーを目指して日々レッスンやオーディションに追われ、……といっても殆どのオーディションに落ちているけれど……夜はここで働いている。


バイトの面接の時に、オーナーは


「一人でぼんやりしたい時にも来れて、好きな人と飯を食いたい時にも来れるような、肩肘張らずに居心地よくいられる店にしたいんだ」

と言っていた。
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