君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
Stage.3 モーリス・ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ
生まれて初めて乗るリムジンで、パーティーから帰途についた。


「俺は送れなくて悪いけど、またいずれクロスカフェで」


と言った澪音は、すぐにパーティーの人波の中に消えた。


「今日のドレスや靴はあげるから、使って」と言われたけれど、こんな高価なものを着る機会はもう二度と無い気がする。


「この髪飾りは取った方が良くないですか……?」


「それも柚葉に持っていてほしい」


「でも……」


梶月家の当主を意味するものなんて、私が貰ってはダメなんじゃないかな。つるんとした髪飾りの感触を確かめながら、これをどう受け取って良いかわからずにため息をついた。


流れる景色を眺めているとあっという間に家に着き、室内でドレス姿の自分を見ると、部屋とのバランスが取れていなくて滑稽だった。


何でも良いからまずは着替えよう。帰りに受け取った荷物をあけて私服を取り出す。


髪を解いて着替えを済ませると、魔法が溶けるように普段の自分に戻った。


「あんな世界で生きてくなんて、澪音は大変だな」


目を閉じて彼の姿を思い出すと、傲岸と言ってもいいような強気な笑顔が目に浮かんだ。

いたずらっ子のような視線。

もっと笑うと目が無くなって可愛い。

それに、何かを諦めたような寂しげな表情も。


「ちゃんと澪音の役に立ててるといいんだけど……」


髪飾りを丁寧に包んで箱にしまうと、荷物の底に白い封筒があるのが見えた。


何だろう……?
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