君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
見透かすような視線に下を向くと、耳のすぐそばで声がした。


「駄目だよ。もう二度とそんなことをしたら」


私を溶かすような声音に、ぎゅっと目をつぶる。今もテーブルの下では指先が遊ばれたまま。


「んっ……わかり、ました……」


その時澪音の携帯に着信があり、一度ぎゅっと握られるとそっと手が離れた。


「……詳細は会議で。先月分までの統計解析を急いで……」


澪音は仕事モードの顔に切り替わって電話をしている。私はドキドキから開放された安心感と寂しさを両方感じながら、紅茶に口をつけた。


電話が終わった澪音は急いで仕事に戻らなければならず、伝票とジャケットを持って席を立つ。


「柚葉、今週末に時間をくれないか?」


慌ててスケジュールを確認して「大丈夫です」と伝えると、澪音は頷いてすぐにカフェを出ていった。


「何の用事か聞くの忘れちゃった」


澪音と二人でいる間はずっと胸の奥が甘く切なくて、頭の半分も働いてなかった気がする。


そうだ、クロスカフェで弾いていたあの曲。新しい澪音の曲の名前を聞き忘れていた。


でも、次に会ったときに聞けるからいいんだ。


紅茶を味わいながら、澪音とまた会える幸せを噛み締めていた。
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