君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「いえ、私も夢ばかり見ていられる歳でもないし、もうそろそろ潮時かなって思ってたところなんです。」


「そんな弱気なことを言うな、俺は柚葉がダンサーになるのを見たいんだ。

……だから、前に柚葉のダンスを人前に晒したくないと言ったのは忘れてほしい。俺の下らない独占欲が柚葉の足枷になって良い筈ないんだから」


独占欲と聞いて、心の奥を掴まれるような心地がした。困るよりもずっと、嬉しい感情が勝ってる。


「私、今さらその気持ちが分かっちゃったんです。クロスカフェで澪音が演奏してる時、女の子がキャーキャー言ってるのが内心では嫌だったから。

澪音は毎日お店に女の子のお客さんばかり増えていくのを、気付いてましたか?」


「柚葉しか見ていなかったから、周りのことは気にしていなかったな。

……ちなみに、柚葉が店でムッとしてたのは知ってた。そのリアクションは可愛くてしょうがなかったよ」


余裕たっぷりの澪音の様子に狼狽えて、ワンピースの裾をぎゅっと掴む。


「もう!そういうの見透かさないでくださいっ恥ずかしいっ!!」


「ははっ。いいじゃないか、お互い様だ。

これからは柚葉が踊るための曲を書くよ。柚葉もダンスを諦めるな。君の才能も努力も本物だと俺が保証するから」


「……」


嬉し過ぎて、何も言えなくなった。


何度も何度も落ちたオーディション。周りと比べて卑屈になって、焦って、落ち込んだ日々。

そういうのが全部、今の澪音の言葉で飛んでいってしまうくらい嬉しかった。

自分以外の誰かに信じて貰えるって、こんなにも心強いことだったんだ。


「もしかして、ダンスの曲ってこの前クロスカフェで弾いてましたか?」


「さすがによくわかるな。あの曲は柚葉に踊って欲しいと思って書いたんだ。また弾くよ」
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