君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
建物に入ると、メイドの人が丁寧にお辞儀をして澪音を出迎える。

リビングは高い天井と壁一面の窓が解放感に溢れていた。パチパチとはぜる音の方を見ると、大きな暖炉に火が灯されている。


ここにも部屋の片隅にグランドピアノが置かれていて、やっぱり澪音の居場所なんだなぁと納得した。


「わざわざすまなかった、ありがとう」


澪音の声がして振り返ると、そのメイドの人は建物を出ていった。テーブルには二人分のコーヒーが淹れられている。


このお家に澪音と二人きり……。意識すると急に心臓がばくばくする。


「ここにはよく来るんですか?」


「いや、一人で来るような所でもないから、子供の頃に来て以来だよ。ここは湯治のために建てられたんだ」


「湯治……って、ここは温泉なんですか?」


「そう、浴室はここに」


澪音に案内されて廊下を歩いた先に、大きな檜のお風呂とさらに奥に露天風呂まであった。乳白色のお湯から湯気が立ち上ぼっている。


「温泉旅館みたいですね、素敵だなー……」


「夕食には早いし、入るか?」


「それなら、澪音がお先にどうぞ」


「一緒に入れば」


「無理ですよ!」


慌てて首をぶんぶん振る。眉を寄せた澪音に、「そんなことしたら恥ずかしくてのぼせて倒れます」と必死にまくし立てる。
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