君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「心配してくれるなんて、思わなくて……

すみませんでした」


澪音の苦しげな声に心が痛くなった。ただのバイトなのに行き過ぎた気遣いだと思う。澪音はそっと私の頭を撫でて、



「俺はこの二週間、時間が許す限り柚葉の曲を作ってた」


と言った。


「曲……本当に作ってくれたんですか……」


「当然だ、約束したろ。

曲を書いて……君のこと考えているだけで癒された。そういう気持ちは久しぶりだったんだ」


抱き締められたまま、ぽつりぽつりと語られる。

お金を受け取った時点で終わりだと思っていたけど、澪音は私の曲を作ってくれたんだ。


乾いた気持ちが、水を注がれたように元に戻っていく。


「聞かせてもらってもいいですか……?」


澪音は抱き締めた腕を離して、ちょっとだけ人の悪い笑みを浮かべた。


「聞かせるには、条件がある」


「えっ……ずるい。

その条件、私断れないじゃないですか」


そんなことを言われたら、私は容易く澪音の曲で釣られてしまう。


「難しいことじゃないよ。

また仕事引き受けてくれない? 今度は一日限りじゃなくて、当面の間ずっと」



「当面の間ずっと、ですか?

私が、何をすれば……?」


「婚約の破談に手を貸してほしいんだ。だから、また恋人役をやってくれないか?」


「婚約……してたんですか。」


「してたというか……ここ数日で急に決まって。

婚約したのは、こいつだけは勘弁っていう相手なんだ。実はすごく困ってる。

こんなこと、柚葉にしか頼めないんだ」


切実な澪音の様子に、何となくパーティーで私に足をかけたあの女の人を思い浮かべた。ああいう人だと、やっぱり澪音も困ると思う。


「私に出来ることならいいですけど……」


「ありがとう。

今度も報酬はきちんと」


「待って! お金はいりません!」


この前、現金の入った封筒を見つけた時の悲しい気持ちを思い出して、澪音を遮った。
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