君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「柚葉は全く……今いいところだったのに

そう急かすなよ」


むーっ、と可愛く相貌を崩して澪音が言う。


でも、この雰囲気だから駄目なのだ。澪音の側にくっついているのはもう限界。


澪音の部屋にもピアノがあるので、ピアノのそばに逃げこんだ。


「考えてみれば……

澪音ほどのピアニストに曲を作ってもらうなんて、バイトじゃとても払えないような高価な報酬ですよね」


「それも一曲じゃ足らないとか言う贅沢者だしな。

足りない分は体で払ってもらうから」


澪音がからかうように言った。私がぎょっとして口を開けると、


「冗談」


と笑って演奏を始める。


しっとりした印象のスローワルツ……でも、時折明るく弾けるようなメロディーが顔を覗かせる。


ワクワクするような、踊り出したくなるような、


……恋したくなるようなメロディー。



これが、私の曲なの?


澪音にとって私はこんな感じなんだと思うと、ドキドキして胸が苦しい。


流れる音楽に聞き入りながら、鍵盤の上をダイナミックに動く澪音の手を眺める。幸せで堪らないのに何故か涙が溢れてきた。


演奏を全部聞き終えると、感動で拍手する手が止まらない。


「すごい、すごい!!素敵すぎます!

どうやってこの嬉しさを表していいかわかりません……!」


「それだけ喜んでくれれば十分現れてるから、何も言わなくていいよ。

柚葉、顔真っ赤。

息荒いし、興奮した犬みたいだぞ」


澪音が私を見て吹き出すけれど、気にしてなんかいられない。


「興奮しないなんて無理!

この曲、CDとかに録音されてるんですか?

毎日いっぱい聞きたいんですけど!!」


「それならレコーディングは済ませて……」

と言いかけた澪音が、何かを考えるように言葉を切った。
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