君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「柚葉様、花嫁修行……というほどのものではありませんが、こちらでご用意させていただく講義のスケジュールを作成いたしました。」


茂田さんに手渡された用紙には、バイトとダンスレッスンの間を縫うように「マナー講習」「茶道」「英会話」「時事・教養」といったカリキュラムが詰め込まれている。


「こんなにたくさん……!」


「いえいえ、こちらはほんの入門でございます。お稽古ごとのつもりでまずは楽しんで下さい」


「これでほんの入門ですか……」


茂田さん、穏やかそうな顔しているのに意外と厳しい。一晩でこのスケジュールを作ってしまうあたりに強い意気込みを感じる。


でも、私は婚約破棄までのダミーだから、結局無駄になっちゃうのに……。申し訳なく思いながらも正直には言えないので、「お手柔らかにお願いします」とだけ伝えてバイトに逃げてきた。


だから、当面の間はこのクロスカフェが私の唯一の癒しの時間なのだ。


……



「手が空いてるときに、飾り付けお願いしていい? 」


と、オーナーに手渡されたのはクリスマス用のオーナメントだ。グランドピアノの横に大きなツリーが運ばれてきて、ここに飾りつけをするらしい。


「もちろん!

もうクリスマスシーズンなんですね……早いなぁ。」


本物のもみの木を使ったツリーと、オフホワイトやシャンパンゴールドのオーナメント。控え目な色が、落ち着いた店内によく合っている。


「年末はダンスのイベントが多いのかな。有坂さん、忙しくなる?」


「お手伝いしてるダンススクールの発表会がありますけど、それほど変わらないですよ

あ。でも今は別件でちょっと……ややこしいことになってるっていうか……」


澪音の花嫁修行で忙しいとは言えず言葉を濁すと、オーナーは


「『愛人にしてやる』とか言ってた例の男関連か。

まったく、既婚者はやめろと言ったのに……」


と、やたらと感が鋭いことを言う。
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