君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「既婚者じゃないんです!本当に。

ただ、婚約者がいるから……」


「それなら似たようなものじゃないか。

いいから一度その相手をここに連れてきなさい。本気で説教してやる」


まるで雷親父のような雰囲気でオーナーが怒っている。その相手はここでピアノ弾いてますよ、と言ったらオーナーはどんな反応をするんだろうか。


「私の一方的な片想いだから無理です」


と言うと、渋面を作ってため息をついた。


「有坂さんは大変な相手を好きになったな」


「ははは……柄にもなく、困ったもんです。

オーナーは、好きな人を簡単に諦める方法知ってますか?」


オーナーは大人の男性だから、何か良いアドバイスを聞けるかも、と期待して聞いてみる。


しかし、オーナーはますます渋い顔になってしまい、


「知らない。多分そんな方法は無いと思う。

俺も若いとき同じようなこと考えたけど、でも無理だった」


と、静かに笑った。


「で、その諦めきれなかった相手とどうなったんですかー!?」


「……え? だから、ええと、妻がその相手で……」


「うわっ。結局のろけかーー!」


思わずオーナーの背中を叩くと、オーナーは「いてっ」と顔をしかめた。


珍しくオーナーの恋バナを聞けたのは良かったけど、簡単に諦める方法なんて無いと言われるとへこむ。


やっぱり、そうだよね。


クリスマスツリーを飾り付けながらため息をつく。ツリーの隣で澪音がピアノを弾いたらよく映えるだろうな、などど思ってしまう自分が情けない。


一番上に大きな星を飾ろうとして背伸びしていると、誰かが後ろからその星を私の手から取って飾ってくれた。
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