君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「簡単に諦める方法、教えましょうか」


低い声がして、驚いて振り向く。


「え?」


「なんて言うのは、キザ過ぎますね。

すみません、お話してるの聞こえちゃって」


にっこりと微笑んだその人はスーツ姿の男の人で、広い肩幅と精悍な顔つきをしていた。


「うわぁ、私ったら恥ずかしすぎる!気にしないで下さい。

ツリーの飾り、付けてくれてありがとうございます。」


「いえいえ、こちらこそ。立ち聞きみたいな真似をしてすみません。

ダンスと聞こえたからつい気になりまして」


よく通る低い声。目元の彫りが深い。毛先を遊ばせた髪と細身のスーツが大人の女の人にモテそうな雰囲気で……そしてちょっとだけ遊び慣れた感じがする。


「あなたも、ダンスをするんですか?」


「私は全然。赴任先でソシアルダンスが必須と言われて、正直困ってるんです。

ダンス教室は私には敷居が高いし……」


「若い男の人で社交ダンスする人、なかなかいないですもんね。仕事で必要って珍しいですね……?」


澪音みたいな特殊な立場でもなければ、日常生活にダンスなんて必要ない。


「私はこういうものでして……」

差し出された名刺には、名前の『杉崎 順平』の他に『外務省』と書かれていた。


「外交官のかたなんですか……!

それで、ダンスが……」


「そうは見えないってよく言われますけどね。

今度ウィーンに行くことになって。自分には馴染みのない文化なんでどうしたものかと……

厚かましいお願いなんですが、私にダンスを教えてくれませんか?」
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