君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「日本は、っていうことは、澪音は他の国にいたんですか」


「音楽をやってるときはウィーンにいたんだ。そっちに婆さんもいるし」


ウィーンという地名を別の人からも聞いたような気がするけど、その後の澪音の言葉が気になって、すぐに頭の中から消えた。


「お婆さん?オーストリアの人なんですか」


「そうそう、向こうで音楽の先生をしてた。だから俺が音楽の道に進まないと分かったときは、一番悲しんでさ。婆さんには悪いことをしたな」


「そうだったんですか……そのときは、澪音も悔しかったですよね」


澪音にそんな過去があったとは。そして、お婆さんがオーストリア人ということは澪音はオーストリア系のクォーターだったんだ。それで肌と髪の色が少し薄くて、彫りが深い容姿なんだと納得がいく。



「まあでも、ピアノだって好きで始めた訳でもないし、父の命令通りに始めて、また父の命令で止めただけだから。少し前まで俺は、父の操り人形みたいな人生だったんだ」



「どういうことですか?」



「元々俺は樫月家の飾り物として、適当に見栄え良くなるように造られたっていうか。

父の方針で音楽に秀でた血を受け継いで、芸術方面の教育を徹底して受けて。」


話について行けずに頭が混乱する。


「造られるって……ご自分のことをそんな風に言わなくても……」


「ん? 気にはしてないし一番分かりやすい言い方をしただけだ。

兄さんと俺は意図的に母親が分けられてるんだ。当主を引き継ぐ質実剛健の兄には実業家の血筋を。飾り物の弟には音楽家の血筋をってね。

父は目的に合わせて子供を造りあげる主義のようなんだけど」
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