君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
そう気合いを入れ直したものの、マナー研修ではお辞儀や挨拶の仕方、座り方、歩き方全てに駄目出しをされて、午前中の比ではないほど疲れ果てた。


肝心のダンスレッスンではフラフラしていて殆ど記憶が無かったけれど、とにかく表情ばかりを注意されていた気がする。


「あなたは自分の魅せ方をあまりにも知らなすぎる。

見てくれる人がいて初めてダンスの意味があるのよ。

見られるということをもっと意識しなさい」


覚えているこのアドバイスだけでも、きちんと残しておかなければ……。


念のため、今日の全ての講義をノートに全てまとめておいた。


「ダンス以外は、私が勉強したって別に意味ないんだけどね」


まぁでも、もしかしたらいつか誰かと玉の輿とか乗っちゃうかもしれないし。

そのときには上流階級のマナーが役に立つ日が来ちゃったりして。


無理矢理モチベーションを上げて講義の復習をしていると、


「柚葉、ここにいるのか?」


と、少し疲れた顔をした澪音が帰ってきた。よく見ると左頬が赤く腫れている。


「その顔、どうしたんですか!?」


「これ?」と自分の頬を差した澪音は、


「父と少しやり合って。あの人わりと短気だから」


と言って笑顔を作ろうとして「痛っ」と眉間に皺を寄せた。


「直ぐに冷やさないとダメですよ!痕が残ったら大変です」


慌ててタオルを氷水で冷して澪音の頬に当てると、澪音はタオルを持つ私の手首をそっと掴む。


「ありがとう。これくらいは大したことないから大丈夫だ」


でも、ここまで痕が残るということは尋常ではない。平手打ちならまだマシな方で、拳とかで殴られたのかもしれない。


「執事の方に取り次ぎましょうか?きちんとお医者さんに診て貰った方が」


「いい。専属医に連絡されると困る。

父にも外聞があるからね。」
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