君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「……いくら澪音に申し訳ないと思っても、自分の恋人を譲るなんて、変じゃないですか?

かぐやさんのこと愛していないんですか?」


『俺やかぐやのような一族の長子は、一般的な恋愛観など持ち合わせていない。恋愛も結婚も自然と家を優先するようにできてる。

自然繁殖しようとするお前たちとは違うんだ』


「自然繁殖って!いつものことですけど随分な言い方ですね」


ムッとなって反論した私に意地悪く笑って、でも弥太郎さんの笑顔はすぐに消えた。


『手術して声帯を切除したのが一年前のことだ。

この体で当主になるのは無理だと悟った時に、かぐやとの関係は終わらせているよ』


「そうだったんですか……でも、かぐやさんはそれで納得したんですか?」


『当時は色々あったが、あいつも理解しているはずだ。

青山家の威信にかけて、青山財閥の会長は俺のような病を患った男に、それも当主でもない人間に、娘を嫁がせるわけがないと。

それは会長の顔に泥を塗るのも同然のことだ』


「どうしてそんな……」


私にはとてもついていけない考えだ。

かぐや姫のお父さんは、娘を恋人と引き裂いてでも樫月家当主と結婚させたいのだろうか。


テレビ画面から流れる澪音の演奏は既に第二楽章が終わり、重く激しい第三楽章が始まっていた。


『そもそも、これは感情の問題だけではない。


例えば、青山家と協業している新エネルギーの開発は樫月にとって次代を担う重要なプロジェクトだが、その前提とには澪音とかぐやとの結婚が必要なんだ。

俺が恋だ愛だと言ってかぐやを手放さなければ、当主である澪音に余計な負担を強いることになるだろう』
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