君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
今まで見たことがないほど、弥太郎さんの顔は暗く沈んでいた。淡々として見えるけれど、内面には深い葛藤を抱えている人なのかもしれない。


「弥太郎さんは……今でもまだ、かぐやさんのこと好きなんですね」


『それはどうでもいいことだ。言ったろう、これからは澪音のために生きると。

かつては澪音の好きな女を奪って、その後はやっと手にした音楽の道を奪って。

そうやって澪音を踏みにじって生きてきた俺が、これ以上どのツラ下げて澪音を苦しめられる?』


もし弥太郎さんにまだ声が出るなら、きっと叫んでいたはずだ。それくらい、悲痛な訴えだった。


澪音が言っていた「物事を諦めるのが得意」という話と、弥太郎さんの話が符合した。お互いを大事に思っているのに、なんて悲しい兄弟なんだろう。


「澪音は弥太郎さんに踏みにじられたなんて思ってないですよ。

前に、澪音にピアノを止めて辛くなかったか聞いたことがあるんです。

でも、澪音は『兄さんの方が悔しかったはず』とだけ言ってましたから」


「澪音はばかだな……」


そう唇を動かした弥太郎さんはちらっとだけ目が潤んで見えたけど、すぐに普段通りのツンとすました表情に戻った。


『あいつのそういう優しさは、これからは弱点にしかならい。矯正してやらなきゃな』


「え、それって澪音が弥太郎さんみたいな性格になるってことですか?


うわ、嫌だー……」


弥太郎さんは「もんくあるか」と私の額を指先で軽く押した。
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