君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
飛び込むように部屋に入った澪音を見て息を飲む。


澪音のネクタイとシャツが半分ほど赤紫に染まっている。弥太郎さんも驚いたように顔をしかめた。


「お見苦しくてすみません。

あの有名な洗礼を受けてきました。青山会長は噂に違わず面白い方のようで」


青山会長というと、かぐや姫のお父さんだ。確か、怒るとワインをかけることで有名と聞いたような……。

兄弟間の会話なのに、澪音は随分とかしこまった話し方をしている。それに、いつもより張り詰めたような表情だ。これが仕事モードの澪音なのかな。まだ見たことのない顔に、ついドキドキしてしまう。


『父様がついていながら、どうしてそんなことになる。

新エネルギー開発事業の件か?』


「違います。昨晩から俺の独断でお会いしてきました。

かぐやの件で」


かぐや姫の件……澪音の口から「かぐや」と聞くとやっぱり胸が痛い。

ワインをかけられたのは、よくある『お嬢さんをください』というやり取りの結果だろうか?しかし、婚約しているのにそれも変な話だ。


「お父様があまりに頑固なので、外堀から埋めることにしたんです。

洗礼は受けましたが、最終的には理解して貰えましたよ。

正式に俺とかぐやの婚約を、破棄してきました。」


『何をしている、今すぐ謝罪して撤回してこい。

青山家との関係悪化がうちにとって大きな痛手になることぐらい、分かるだろ』


「ですから。

最終的には理解して頂いたと言ったじゃないですか。

確かに大きな損失も生みましたが、俺としては一番良い解決をしたと自信を持っています」


ギラギラと目を光らせて、一歩も引かずに弥太郎さんに畳み掛ける澪音は、私の知らない人のようだった。
< 87 / 220 >

この作品をシェア

pagetop