君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
だって、私の知っている澪音は繊細で柔らかな雰囲気で、いかにも末っ子っぽく甘えたりして、次期当主なんて任されて大丈夫かなと心配していたくらいだから。


しかもお茶も淹れられないほど不器用だし、自分のことを「兄より劣った存在」なんて卑屈なこと言ってたのに。


『大きな損失とは何だ?エネルギー開発事業を取り止めたのか?

関連事業を含めれば、何万人規模の雇用に影響が出るんだぞ。たかが結婚の代償には大きすぎる痛手だ。

俺は認めない』


「兄さん、落ち着いてください。事業は継続しますから問題ありません。


兄さんがかぐやと結婚するんです。これは俺の決定事項です。

当主は一族の婚姻を決定できる権限がありますよね?

俺はまだ次期当主なんで少し早いですが、兄さんには俺の指示に従って貰いますよ」


澪音はまっすぐに弥太郎さんを見据えている。弥太郎さんは話にならないと嗜めるように首を横に振った。



『俺の嫁になど、青山会長が許可するはずがない』


「仰るとおりです。かぐやは樫月の嫁にはなりません」


弥太郎さんは、「意味がわからない」と首を傾げた。


「兄さんが婿養子として青山家に入るんです。樫月としては大きな損失ですが、この条件なら青山会長は納得してくださいました。

あの会長だって、できるなら可愛い娘を手元に置いておきたいものなんですよ」


「な……」


弥太郎さんの口が開いている。


「そもそもエネルギー開発の件は青山財閥との共同事業なんですから、兄さんがうちで働こうが青山財閥で働こうが結果は同じです。

兄さんが樫月を去るのは損失ではありますが、外部に見方を作るのはメリットもあります」
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