君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
そこまで言い切って、やっと澪音らしい笑顔を見せた。上目使いで甘えるように弥太郎さんを見る。


「兄さんなら、どこにいても樫月の……俺の味方でいてくれますよね?」


「当然だ」


何かを堪えるように弥太郎さんの眉が歪んで、筆談がもどかしいのか唇での会話になった。あまり内容を読み取れないけれど、弥太郎さんは感極まったように話している。


「澪音の……いところは、当主にはマイナスだと……

でもお前はそのままで、強く……想像を越えて……」


澪音が安心したように大きく息をついた。この言葉が、弥太郎さんの了承の意図を伝えたようだ。


『残る問題は父様か?』


「いえ、お父様は大きな問題にはなりません。

あの人は確かにやり手だと思いますが、強引過ぎる手腕に反発も多いようですから。

俺は父の路線は継げませんから、早々に引退してもらおうと思っています。」


意味深に語る澪音に、弥太郎さんがぎょっとしたように固まる。


『何する気だ?』


でも、澪音は涼しい顔でそれを受け流した。


「取るに足らないことですよ。

そんなことより……!

そろそろ俺の用件を聞いてください」


ぐいっと詰め寄った澪音に「何だ?」と弥太郎さんが不思議そうにする。


「柚葉を返してください!

どうせここにいるんでしょう!?」


澪音は弥太郎さんの両腕を掴んでいた。急に私の名前が出てきて、心臓が跳ね上がる。


弥太郎さんはしばらく呆気に取られた顔をしてから、ホワイトボードに文字を書いた。


『それがお前の望みか?』


「そうです。柚葉は……、柚葉だけは駄目です。

俺は諦めませんから。兄さんにも、他の誰にも譲る気はありません。

彼女は俺のものです!」
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