君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
その様子を見た弥太郎さんは、しょうもない説明を重ねていった。


『犬はカノンだけで十分だ』

『動物愛護の観点で保護してやっただけ』

『もう野に放っても問題ないほど回復したようだが、必要なら早く引き取れ』


こんなの、達筆な文字の無駄遣いだ。私にもよく見えるように大きく書いてくれているのは、意地悪なのか親切なのか判断に迷うところだけど。


『でも、澪音のものとは言えないんじゃないか?

あの女はお前に雇われたと言っていたぞ』


「……!」


弥太郎さん、何もその事を言わなくたって……!強引に聞き出したくせに、あっさりと澪音に言うなんて酷すぎる。


「確かに今はまだ……そうなんですが……」


項垂れたように呟く澪音に被せるように、弥太郎さんは言葉を続けた。


『あの女はお前の顔などもう見たくないそうだが、労働の報酬がきちんと支払われていないと文句を言っていた。

だからこの俺に取り立てを要求してきたんだが

澪音、不当な労働を強いるのは複数企業を束ねるトップとしていかがなものかと……』



「ちょっと、弥太郎さん!

そんなこと私ひとっことも言ってませんけどー!!」


あまりの言いように思わずバスローブ姿のまま飛び出すと


「柚葉!」


澪音に驚愕の顔で見つめられた。


「弥太郎さんが今言ったの間に受けないでくださいよっ。

弥太郎さんは言葉のニュアンスを思いっきり悪質に変化させて……」


「待って。何その格好」


澪音が眉を寄せて私をじろっと睨み付ける。
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