君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「何って……今ちょうどお風呂上がりで……。

ていうか、今の澪音は人の格好をどうのと言える状態じゃないですよ、シャツが半分ワイン色に染まってるし。

ですからっ あのっ あんまり見ないで欲しいんですけどっ!!」


不機嫌極まりない表情に変わった澪音にたじろぎながらも、何とか言い返す。


「兄さんの前では平気で、俺に見られるのは嫌なのか?」


「だって弥太郎さんはいつもあんな感じなんですよ?」


「だとしても少しは警戒心を持て!」


「別に誰の前でどんな格好になっても、澪音にどうこう言われる理由は無いはずですけど……」


「柚葉、それは本気で言っているのか?」


その時、ホワイトボードをコツンと叩く音がして、振り返ると


『痴話喧嘩なら外でやれ』


と書いてあった。弥太郎さんが呆れた顔で私たちを見ている。


痴話喧嘩?


そもそもこんな口論になったのは、弥太郎さんのあんまりな言いっぷりに、澪音の前につい飛び出してしまったからなんだけど……!?


「兄さん、用件は済みましたので俺たちはこれで失礼します」


澪音はムスっとした顔のまま、私を抱え上げて部屋を出た。


「澪音、下ろしてっ、自分で歩けますって!」


「駄目だ、下ろさない。自由にさせたら何処へ逃げるかわからないからな」


足早に澪音は自室に戻り、扉を閉めると部屋に鍵をかけた。私を扉の前に下ろして、両方の肩に手を置く。


「俺の目の前から勝手に居なくなるなんて許さない。

どれだけ探したと思ってるんだ」


それだけ言うと、私を扉に押し付けるようにして荒々しく唇を塞いだ。
< 92 / 220 >

この作品をシェア

pagetop