君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「……あの時のことか。

一人にして悪かった。俺も、柚葉を追いかけたかったが行くに行けない状況だったんだ。

久々にかぐやの意志の強さと怖さを思い出したよ。

世間ではかぐやの親父さんが恐れられてるようだけど、かぐやに比べれば余程優しい。ワインかけられるくらいで済むなら、どうってことないからな」


澪音は眉をしかめて、べったりとワインで汚れた自分のシャツを見下ろす。大きくため息をついて「これじゃ、さすがに酒臭いか」と呟いた。


「シャワー浴びてくる。柚葉、逃げるなよ」


ネクタイを緩めていた澪音は、その手を止めて私を引きずるようにピアノの前まで連れていった。ほどいたネクタイを使って私の両手をピアノの椅子に縛りつける。


「ちょっと!澪音!?

わかりました、逃げませんからこれは外して……」


「駄目。

わかってると思うけど、俺は今かなり深刻に怒ってるんだよ。

兄さんとの距離感については二度も注意したのに、柚葉は全くの無視なんだからな。


少しは自分の無防備さを理解してくれ」


澪音はそれだけ言ってバスルームに向かってしまい、私は動けないまま澪音のシャワーを待つことになった。


目の前の艶やかなグランドピアノを眺めると、あの日見た澪音とかぐやさんの姿を否応なく思い出す。

ここで、かぐやさんは澪音にしなだれかかるように抱きついていたのだ。澪音だって、それを受け入れるようにピアノを弾いていた。
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