君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
あの時見た光景はそんな場面だったの!?


でも過去に好きだった人にそこまでされたら、澪音だってその気になるのが、普通じゃないのかな……?


「それで、悪ノリしたかぐやが難易度の高い曲ばっかりオーダーしてくるんだよ。リストの『ラ・カンパネラ』とか。


それで、何とかして俺にタッチミスさせようと意地悪く楽譜を物色してたかぐやが、たまたま柚葉の曲を見つけたんだ」


「ほら、これ」と澪音が取り出したのは、本棚の一つのスペースを埋め尽くすようにしまわれていた手書きの楽譜だった。


「こんなに、たくさん……? あのワルツ、楽譜にするとこうなってるんですか!?」


「それだけじゃなくて、柚葉の前で弾いてない曲がまだまだある。未完の曲もあるし……


で、これ全部柚葉のことを想って作った曲だと説明して、俺の気持ちを理解したかぐやが、やっと引き下がってくれたんだ。


だから、あの時は間接的に柚葉に助けられた。この曲のお陰で、何とか平和的解決に至ったからな」



ぽかーんとして話を聞いていたけれど、思わぬ所で存在を知った楽譜に目が吸い寄せられた。


「その曲、聞いてみたいです……」


「いつでも、いくらでも。望むままに弾いてあげるよ」


そう言った澪音は、やっと笑顔を見せてくれた。



「だけど柚葉も、厄介な注文つけてくれたよな。

曲を作るのが、どういうことか知ってるか?」


私はぶんぶんと首を横に振る。弾くこともできないのに、曲を作るのなんて想像もつかない。


「言葉を使ってない分余計にたちが悪いんだ。

どれだけ柚葉のことが好きか、フレーズごとに身をもって思い知らされる。

柚葉の顔や声、温度だとか仕草とかを思い浮かべて、それに合った澄んだ音を探して。

だから結局、これは全部俺からのラブレターなんだ。受け取ってくれるなら嬉しい。


……好きだよ、柚葉」
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