直さんと天くん
天くんと私を乗せた観覧車が、ゆっくり上がっていく。

向かいの座席に座っている天くんは、口をぽっかり開けて、わ〜高け〜、とか言いながら窓越しに園内の景色を見下ろしている。

…知り合ってしばらく経つけど、考えてみたら、私、天くんのことほとんど何も知らないんだよなぁ。

21歳で、亀屋町に住んでいて、高瀬大学に通ってるってことしか知らない。

私を好きだって言うけど、そもそも天くんはどうして私の前に現れたんだろうか。

始めて私の前に現れたあの晩、私を探してたって言ったけど、あれは一体どういう意味だったんだろう。

ほとんど毎日、天くんの家からも大学からも遠く離れたあのコンビニに通っている以外、普段何をしてるのか、どんな生活をしてるのかもわからない。

天くんは自分のことをあまり話さない。
家族の話も学校の話もしないし、何か話したくないような事情があるんだろうか。

家庭内や学校生活にトラブルを抱えているとか…?


「…天くん、この前の…ばあちゃんの家でのこと、ありがとな。私、幽霊とか心霊現象とか初めてだったから、天くんが落ち着いてたおかげで助かったよ。天くんがいてくれたから、じいちゃんの話が聞けて、ばあちゃんも救われたみたいだし…なんか、私の方が年上なのに、助けてもらってばっかりだよな…熱出したときにおんぶして送ってくれたこともあったし…」

「直さんの役に立てたなら、よかったです。何かあったら、いつでも僕のこと呼んでください。直さんが僕の名前呼んだら、僕、どこにでもすぐに飛んでくから」

「天くんが言うと本当に空飛んできそうだよ…ありがと。天くんも、何か悩んだり、困ってることがあったら、話してくれよ?私も天くんの力になりたいからさ」

私の言葉に天くんは何か言いかけて口を開いたが、口を噤んで、曖昧に笑ってから、視線を膝の上に落として、黙り込んだ。


…やっぱり何か、人には言えないような悩みでも抱えているんだろうか。

それは、私じゃ力になれないのか…?
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