直さんと天くん
そんな調子で、秋桜畑での一件を思い出しては赤くなり、返事ができないことを考えては溜息を吐く、その繰り返しの今日この頃。
店内の床をモップで掃除した後、壁に掛かっている時計を見上げると、時刻は12時半を過ぎたところだった。
山吹さんがバックヤードで行う仕事があって、私がカウンターに立つことになった。
そのまましばらく客足のない時間が続き、深夜1時半。
レジの中のお金を数えたり、カウンター周辺を片付けたりして時間を潰していたら、入店チャイムの音と共に扉が開いた。
天くんかな、と思って顔を向けると、全くの別人だった。
入ってきたのは、黒い服、黒い帽子、濃い色のサングラス、それにマスクを掛けた中年男性だった。
「いらっしゃいませー…」
夜中に何故サングラス…?と思い、手が止まる。
ひょっとして…ひょっとする、か…?
瞬時に警戒心が湧く。
黒ずくめの男性は、挨拶を返すわけでもなくこちらを一瞥すると、入り口付近に立ったまま店内を見渡した。
帽子にサングラス、そしてマスクで顔が見えないようにしているって、ぱっと見、怪しい。
でも普段から街中でも帽子を目深に被って歩いている人や、全身黒い服の人、色の濃い眼鏡を掛けてマスクをしてる人なんて大勢いる。
このコンビニに来るお客さんも、似たような格好の人はよくいるし。
本当に怪しい人ではないかもしれない。
深夜に散歩したりランニングしてる人なのかもしれない。
…って、今にして思えば、夜中に散歩やランニングするなら尚更サングラスは掛けないだろうって話なんだが、どういうわけか、そのときはそう思って疑わなかったのだ。
郊外の閑静な住宅地の入り口に建っていて、お客さんは近隣住民か土木作業員の人がほとんど。
夕方を過ぎるといっきに客足が減る。
そんなのんびりしたコンビニで、まさか強盗事件なんて起きないだろうと信じて疑わなかったのだ。
それに私自身、強盗に遭遇するなんて、ありえないと思っていた。
自分の人生にそんな事件は起きない。
だって自分の人生は平和で平凡なものだから。そう信じきっていた。
先程まで店内を見渡していた黒ずくめの男がこちらへ向き直る。
そして足を踏み出してゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
何かお探しですか?
そう声をかけようとして口を開いた、その時だった。
「金を出せ」
カウンターの前に立った男が、そう言ったのは。
人生って何が起きるかわからない。
頭の隅で、ほんの1時間半前に自分がそう考えたことを思い出した。
店内の床をモップで掃除した後、壁に掛かっている時計を見上げると、時刻は12時半を過ぎたところだった。
山吹さんがバックヤードで行う仕事があって、私がカウンターに立つことになった。
そのまましばらく客足のない時間が続き、深夜1時半。
レジの中のお金を数えたり、カウンター周辺を片付けたりして時間を潰していたら、入店チャイムの音と共に扉が開いた。
天くんかな、と思って顔を向けると、全くの別人だった。
入ってきたのは、黒い服、黒い帽子、濃い色のサングラス、それにマスクを掛けた中年男性だった。
「いらっしゃいませー…」
夜中に何故サングラス…?と思い、手が止まる。
ひょっとして…ひょっとする、か…?
瞬時に警戒心が湧く。
黒ずくめの男性は、挨拶を返すわけでもなくこちらを一瞥すると、入り口付近に立ったまま店内を見渡した。
帽子にサングラス、そしてマスクで顔が見えないようにしているって、ぱっと見、怪しい。
でも普段から街中でも帽子を目深に被って歩いている人や、全身黒い服の人、色の濃い眼鏡を掛けてマスクをしてる人なんて大勢いる。
このコンビニに来るお客さんも、似たような格好の人はよくいるし。
本当に怪しい人ではないかもしれない。
深夜に散歩したりランニングしてる人なのかもしれない。
…って、今にして思えば、夜中に散歩やランニングするなら尚更サングラスは掛けないだろうって話なんだが、どういうわけか、そのときはそう思って疑わなかったのだ。
郊外の閑静な住宅地の入り口に建っていて、お客さんは近隣住民か土木作業員の人がほとんど。
夕方を過ぎるといっきに客足が減る。
そんなのんびりしたコンビニで、まさか強盗事件なんて起きないだろうと信じて疑わなかったのだ。
それに私自身、強盗に遭遇するなんて、ありえないと思っていた。
自分の人生にそんな事件は起きない。
だって自分の人生は平和で平凡なものだから。そう信じきっていた。
先程まで店内を見渡していた黒ずくめの男がこちらへ向き直る。
そして足を踏み出してゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
何かお探しですか?
そう声をかけようとして口を開いた、その時だった。
「金を出せ」
カウンターの前に立った男が、そう言ったのは。
人生って何が起きるかわからない。
頭の隅で、ほんの1時間半前に自分がそう考えたことを思い出した。