直さんと天くん
午前11時半。
高瀬大学近くのバス停。
バスから降りて、曇り空を見上げると、頬に小さな水滴が落ちてきた。
やっぱ降ってきたか、雨…。
天気予報通りだな…。
小さく溜息をついて、用意してきたビニール傘を開く。
天くんの学部さえわからないけれど、昼食の時間になればきっと食堂にいるだろう。
勿論大勢人がいるだろうけど、何故だか天くんならすぐ見つかる気がする。
大学を訪ねる前に何か食べ物を買って差し入れてやろうと思い、近くの商店街に立ち寄った。
商店街は図書館で働いていた頃に何度か買い物に来たことがあった。
懐かしい…あんまり変わってないな…。
たい焼き屋さんが目に入って足を止める。
ここのたい焼き、美味しかったよな…。
よし、決めた。差し入れはこれにしよう。
店の軒下に入って傘を畳んだ。
「すみません、たい焼き2つください。あ、あとこのクリーム入りのも2つ…」
指差しながら注文していると、背後から突然。
「うわ〜美味しそうですね、たい焼き。僕も食べたいです」
肩越しに覗き込んでくる、天くんがいた。
「天くん!」
「こんにちは、直さん」
「びっくりした〜、いつも突然現れるよなぁ、きみ」
驚いて見上げる私に天くんはいつものやわらかい笑顔を返した。
「直さん、どうしてここにいるんですか?お店は?」
小首を傾げる天くん。
「いや、天くんが来なかったからさ。いつも私が店にいるときは来るのに。だから、どうかしたかなと思ってさ」
「あ〜…それは…」
急に天くんの表情が曇って、言いにくそうに口数が減る。
その様子に私は慌てて言う。
「あ、いや、そりゃ学校とか友達付き合いとか趣味の時間とか色々あるよな!会いに来ない日だって当然あるって、ちゃんとわかってるよ!ごめんな、責めてるみたいに聞こえるよな。責めてるわけじゃないんだ。
けど、ほら、強盗のあった晩、天くんの様子がいつもと違ったから、それで…」
色々喋って途中で気がつく。
心配だったから、気になったから。
それも理由ではあるんだけど、一番はただ。
「…会いたかったんだ、天くんに」
ただ、私が、天くんに会いたかっただけ。
天くんの顔が見れないと、声が聞けないと、寂しくなるほど、我慢していられないほど、それくらいもう好きになってしまったんだ。
そう実感して、照れるよりもなんだかしみじみしながら呟いた。
ふと見上げると天くんが目をきらきら輝かせながら私を見つめていた。
なんだ?なんでそんな朝日が反射した海面みたいにきらきらしてんだ?私なんかした?
「ええと、まあ、それでさ、丁度これから高瀬大に行こうと思ってたんだ。差し入れにここでたい焼きでも買って行こうと思ってさ」
「大学に、ですか…」
まただ。天くんの表情が曇る。
前にも学校の話を口に出すとこんな風に困ったような顔をして黙り込むことがあった。
それか、はぐらかして答えることを避けるような。
学校あんま楽しくないのかな、私もそんな時あったし天くんもそういう時期なのかな〜…なんて、なんとなく思ってたけど…。
「どした?何かいけなかった?あ、もしかしてたい焼き嫌い?」
「たい焼き大好きです。何もないですよ。直さんがいけないことなんて、なんにも」
そう天くんは首を横に振って笑ってみせた。
だけど一瞬目を伏せたその顔がとても悲しそうに見えた。
やっぱり、天くんは私に何か隠してる。
一体何を?
口を開こうとしたその時、目の前に紙袋を持った両手がにゅっと出てきた。
「はい、たい焼きお待ち!」
高瀬大学近くのバス停。
バスから降りて、曇り空を見上げると、頬に小さな水滴が落ちてきた。
やっぱ降ってきたか、雨…。
天気予報通りだな…。
小さく溜息をついて、用意してきたビニール傘を開く。
天くんの学部さえわからないけれど、昼食の時間になればきっと食堂にいるだろう。
勿論大勢人がいるだろうけど、何故だか天くんならすぐ見つかる気がする。
大学を訪ねる前に何か食べ物を買って差し入れてやろうと思い、近くの商店街に立ち寄った。
商店街は図書館で働いていた頃に何度か買い物に来たことがあった。
懐かしい…あんまり変わってないな…。
たい焼き屋さんが目に入って足を止める。
ここのたい焼き、美味しかったよな…。
よし、決めた。差し入れはこれにしよう。
店の軒下に入って傘を畳んだ。
「すみません、たい焼き2つください。あ、あとこのクリーム入りのも2つ…」
指差しながら注文していると、背後から突然。
「うわ〜美味しそうですね、たい焼き。僕も食べたいです」
肩越しに覗き込んでくる、天くんがいた。
「天くん!」
「こんにちは、直さん」
「びっくりした〜、いつも突然現れるよなぁ、きみ」
驚いて見上げる私に天くんはいつものやわらかい笑顔を返した。
「直さん、どうしてここにいるんですか?お店は?」
小首を傾げる天くん。
「いや、天くんが来なかったからさ。いつも私が店にいるときは来るのに。だから、どうかしたかなと思ってさ」
「あ〜…それは…」
急に天くんの表情が曇って、言いにくそうに口数が減る。
その様子に私は慌てて言う。
「あ、いや、そりゃ学校とか友達付き合いとか趣味の時間とか色々あるよな!会いに来ない日だって当然あるって、ちゃんとわかってるよ!ごめんな、責めてるみたいに聞こえるよな。責めてるわけじゃないんだ。
けど、ほら、強盗のあった晩、天くんの様子がいつもと違ったから、それで…」
色々喋って途中で気がつく。
心配だったから、気になったから。
それも理由ではあるんだけど、一番はただ。
「…会いたかったんだ、天くんに」
ただ、私が、天くんに会いたかっただけ。
天くんの顔が見れないと、声が聞けないと、寂しくなるほど、我慢していられないほど、それくらいもう好きになってしまったんだ。
そう実感して、照れるよりもなんだかしみじみしながら呟いた。
ふと見上げると天くんが目をきらきら輝かせながら私を見つめていた。
なんだ?なんでそんな朝日が反射した海面みたいにきらきらしてんだ?私なんかした?
「ええと、まあ、それでさ、丁度これから高瀬大に行こうと思ってたんだ。差し入れにここでたい焼きでも買って行こうと思ってさ」
「大学に、ですか…」
まただ。天くんの表情が曇る。
前にも学校の話を口に出すとこんな風に困ったような顔をして黙り込むことがあった。
それか、はぐらかして答えることを避けるような。
学校あんま楽しくないのかな、私もそんな時あったし天くんもそういう時期なのかな〜…なんて、なんとなく思ってたけど…。
「どした?何かいけなかった?あ、もしかしてたい焼き嫌い?」
「たい焼き大好きです。何もないですよ。直さんがいけないことなんて、なんにも」
そう天くんは首を横に振って笑ってみせた。
だけど一瞬目を伏せたその顔がとても悲しそうに見えた。
やっぱり、天くんは私に何か隠してる。
一体何を?
口を開こうとしたその時、目の前に紙袋を持った両手がにゅっと出てきた。
「はい、たい焼きお待ち!」