直さんと天くん
あれは一体何だったのか。
呆然としていたら、天くんが目をこすりながら眠気を訴えて、時計を見るとすっかり遅い時間になっていた。
日帰りの予定だったのだが、夜遅いし、あんなことが起きた後だから、ばあちゃんを一人にしておけず、泊まっていくことにした。
お風呂に入ってから、客間に布団を三つ敷いて、ばあちゃんを真ん中に川の字になって眠りについた。
翌朝。
目を開けたら、天くんの寝顔のどアップだった。
「うおぉっ!」
ばあちゃんを間に挟んで寝てたのに、なぜか私の布団で一緒に寝ている。
熟睡していて、私の声にも起きない。
こうして静かに眠っていると、顔立ちが整っているのがよくわかる。
上体を起こして、見ると、ばあちゃんはもういなくて、布団も片付いていた。
すると、襖が空いて、ばあちゃんが顔を出した。
「起きたかい、直ちゃん。朝ごはん出来たから、帰る前に食べていきな。直ちゃんの好きな出し巻き卵もあるよ」
そう言って笑う。
「あ、ありがとう…なんか、ばあちゃん、元気だね…」
「久しぶりにじいちゃんに会えたからね。笑ってる顔が見れたし、あの世も悪くないところみたいだし、元気にやってるようで安心したよ。死んでるのに元気なんて言い方はおかしいかねぇ」
ばあちゃんは可笑しそうにくすくす笑って、それから、一息ついて、こう言った。
「…私ねぇ、じいちゃんが死んだ後、心のどこかでずっと、私だけ生きてていいのかと思ってたんだよ…。
勿論、生きていられるのがどんなにありがたいことか、わかってるよ。けど、誰かに…勝四郎じいちゃんに、生きてていいよって言ってもらいたかったんだよ。それが夕べ、じいちゃんから聞けて…ようやく肩の荷が下りた気分だよ」
「ばあちゃんがそんな風に思ってたなんて気付かなかった…てっきり、もう立ち直ったんだとばかり思ってた…ごめん…」
「いいんだよ。これで本当に、私はもう大丈夫。心置きなく生きていけるよ」
そう言ったばあちゃんは、晴れ晴れした様子だった。
そのとき、ん〜…と、寝ている天くんが身動きして、腰に腕が巻きついた。
ばあちゃんは天くんの寝顔を見ながら微笑んだ。
「これも全部、この子のおかげだね」
そういえば、三人ともじいちゃんの姿は見えたけど、じいちゃんが何を言っているのかわかったのは天くんだけだった。
霊感が強いんだろうか?
あの後も一人だけ落ち着いてたし。
不思議なやつ…。
「天くんが直ちゃんのお婿さんに来てくれたらいいんだけどねぇ」
「何言ってんの、ばあちゃん…」
「ん〜…直しゃ〜ん…」
へらぁ、と笑いながら頭をすり寄せてくる。
確かに、こいつのおかげで、じいちゃんが言ってることがわかったし、パニックにならずに済んだのかもしれない。
謎の多いやつだけど、天くんに救われたのだ。
ふわりとした胡桃色の髪を撫でてやる。
もう少し寝かせておいてやろう。
20171111,20171119
呆然としていたら、天くんが目をこすりながら眠気を訴えて、時計を見るとすっかり遅い時間になっていた。
日帰りの予定だったのだが、夜遅いし、あんなことが起きた後だから、ばあちゃんを一人にしておけず、泊まっていくことにした。
お風呂に入ってから、客間に布団を三つ敷いて、ばあちゃんを真ん中に川の字になって眠りについた。
翌朝。
目を開けたら、天くんの寝顔のどアップだった。
「うおぉっ!」
ばあちゃんを間に挟んで寝てたのに、なぜか私の布団で一緒に寝ている。
熟睡していて、私の声にも起きない。
こうして静かに眠っていると、顔立ちが整っているのがよくわかる。
上体を起こして、見ると、ばあちゃんはもういなくて、布団も片付いていた。
すると、襖が空いて、ばあちゃんが顔を出した。
「起きたかい、直ちゃん。朝ごはん出来たから、帰る前に食べていきな。直ちゃんの好きな出し巻き卵もあるよ」
そう言って笑う。
「あ、ありがとう…なんか、ばあちゃん、元気だね…」
「久しぶりにじいちゃんに会えたからね。笑ってる顔が見れたし、あの世も悪くないところみたいだし、元気にやってるようで安心したよ。死んでるのに元気なんて言い方はおかしいかねぇ」
ばあちゃんは可笑しそうにくすくす笑って、それから、一息ついて、こう言った。
「…私ねぇ、じいちゃんが死んだ後、心のどこかでずっと、私だけ生きてていいのかと思ってたんだよ…。
勿論、生きていられるのがどんなにありがたいことか、わかってるよ。けど、誰かに…勝四郎じいちゃんに、生きてていいよって言ってもらいたかったんだよ。それが夕べ、じいちゃんから聞けて…ようやく肩の荷が下りた気分だよ」
「ばあちゃんがそんな風に思ってたなんて気付かなかった…てっきり、もう立ち直ったんだとばかり思ってた…ごめん…」
「いいんだよ。これで本当に、私はもう大丈夫。心置きなく生きていけるよ」
そう言ったばあちゃんは、晴れ晴れした様子だった。
そのとき、ん〜…と、寝ている天くんが身動きして、腰に腕が巻きついた。
ばあちゃんは天くんの寝顔を見ながら微笑んだ。
「これも全部、この子のおかげだね」
そういえば、三人ともじいちゃんの姿は見えたけど、じいちゃんが何を言っているのかわかったのは天くんだけだった。
霊感が強いんだろうか?
あの後も一人だけ落ち着いてたし。
不思議なやつ…。
「天くんが直ちゃんのお婿さんに来てくれたらいいんだけどねぇ」
「何言ってんの、ばあちゃん…」
「ん〜…直しゃ〜ん…」
へらぁ、と笑いながら頭をすり寄せてくる。
確かに、こいつのおかげで、じいちゃんが言ってることがわかったし、パニックにならずに済んだのかもしれない。
謎の多いやつだけど、天くんに救われたのだ。
ふわりとした胡桃色の髪を撫でてやる。
もう少し寝かせておいてやろう。
20171111,20171119