彼氏じゃないからできた
夜の海岸はよそよそしく、どこか寒さを感じさせた。


空は分厚い雲に覆われていて、星はほとんど見えない。


わたしと彼は寄り添って座り、その恐ろしいほどの拒絶を纏った海を見つめていた。


「なんだか、世界の終わりみたいだな」


と、彼が突然センチメンタルなことを言い出すので、わたしはくすっと笑う。


「いきなり何を言い出すんだか」

「いや、なんだかそんな感じするじゃん。やっぱすげえなあ、海って」

「ここが世界の終わりなら」

「……ん?」

「わたしたちは取り残されたたった二人ぼっちの人類ってところ?」

「そう、なるんだろうな」

「こんな冴えない男と二人で最後の人類かあ。泣けてくるね」


「ひどいな」と言って、彼は笑った。


その笑顔がなんだか愛しく思えて、わたしはそこに唇を重ねた。


そのまま「世界の終わりと二人の男女」という絵になってもおかしくないような長い長いキスだった。


静かな波の音が重なり、時間の濃度をどこまでも濃くしていくようだった。かすかな月明かりだけが、ぼんやりとあたりを照らしていた。



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