千秋先輩。その鈍感、本気ですか？

あの後、劇は輝姫に戻り、恐らくクラスメイト以外は誰も千秋先輩が一瞬お姫様をしたなんて思っていないだろう。


「あや！本当にごめん！！！！」

千秋先輩がなぜあのシーンだけ輝のフリをしていたのかというのは至ってシンプルで、あのシーンの直前にお腹の痛くなった輝が同じくトイレに行こうとしていた千秋先輩に衣装とウィッグを全部押しつけてトイレに駆け込んだというものだった。けど、許す許さないの問題じゃない。


（キスされた……？）
ポンッと頭の中の天使と悪魔が囁く。
『絶対あれはキスだよ！！』
『腕がたまたま当たったんだろ』
『口にだけ当たることなんてないもん！！』
『でも誰も見てないじゃねーか』

「……あの、あやさん、怒ってる？」
輝がビクビクしながら聞いてくる。


「…怒ってないよ。びっくりしてるだけ」


「良かった！本当に、今回はたまたまトイレに行こうとしてた千秋先輩に頼んだだけだから！別にあやと先輩の仲を切り裂くつもりもないし！！」



「分かったって！大丈夫だよ」