千秋先輩。その鈍感、本気ですか?
思わぬ発言にフリーズする。

先輩は怒られた子犬みたいな目でこっちを見てくる。

「前から思ってたんですけど、先輩のそれってわざとですか?」





「は?何が?」




きょとんとしてる…ような、
心無しか顔が赤いような。

いやでもさっきまで練習してたからな…。
千秋先輩がどういう意図で発言してるかが全く分からない。




いやいや。七菜先輩も言ってた。"バスケバカで恋愛には疎い"って。




…ん?顔が赤い?



「熱があるんじゃないですか!?」





慌てて先輩に駆け寄る。




「近い近い近い!!!」




千秋先輩が顔を勢い良く避ける。

自分だって距離近いくせに!!





「寺原は女子なんだぞ!さすがにでこはまずいって!!手で計ればいいだろ!?」





「なんなんですか女の子みたいにギャーギャー言って




…………………え。もしかして、私すごいことしようとしてました?」





千秋先輩が黙って頷く。 




変な静けさになる。






…自分のしようとしてたことをなんとなく思い出す。
私、千秋先輩とおでこくっつけて熱計ろうとしてた!?!





「〜〜〜〜〜っっ!?すみませ…



「時差で顔赤くなるのやめろ!!こっちまで恥ずかしい!!」




千秋先輩が私の目を塞ぐ。





「お前、人のこと言えないくらいに顔熱いんだけど」





「熱とかじゃないですからね!?」





「分かってるよ!!」





「…あの、すみません先輩。そろそろ手離してもらっていいですか。力強くて目が痛いです」





「えっ悪い!!」





しばらくしてやっと視界がはっきりしてきた。
なぜか、今度は千秋先輩がパーカーで顔を隠している。





「…何やってるんですか先輩」





「…ちょっと今見せられない顔してるから。
5分待って、送るから」


なんか先輩、かわいい。




「嫌です!私、お先に失礼します!」





「は!?なんか今日意地悪くないか!?
危ないって待て!」




千秋先輩がパーカーから顔を上げる。



今まで見たことない顔してる。


可愛いような、かっこいいような。


多分、バスケ部みんな知らない、

私だけが知ってる顔だ。
 

嬉しい。

「___っあ"ー!騙された!こら、にやにやすんな! 帰るぞ!!」



先輩がぷりぷりしながら先に行ってしまう。





「待って下さい!!すみません!」





「声が笑ってるし!」





「すっすみません!」




どうしよう。今日は嬉しくて寝られないかも。
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