千秋先輩。その鈍感、本気ですか?
先輩達にバレないように更衣室で着替えて、
私は外へ出た。



(頭がぼーっとする…)



輝が心配そうに私の顔を覗き込む。





「あや、大丈夫か?」





「もしかして、私を無理矢理連れて行こうとしたのって千秋先輩だって気づいたから?」




困ったみたいに頷く。





「…優しいじゃん。
でも、大丈夫だから!なんか心配させてごめんね?」





「心配だよ。あやって自分の気持ち抑え込みやすいし。俺、後ろ向いとくから泣けよ」




大きな背中が向けられる。

昔から優しい所は変わらないね。



でも、不思議と涙は出なかった。

失恋したんだなぁっていう実感が時差でふつふつと湧いてくるけど悲しいだけで、涙は出てこない。





「…大丈夫。帰ろ」




輝の肩を叩いて、学校を後にする。





「遠山先輩、この前彼氏いないって言ってた。千秋先輩と違う話してたかもしれないじゃん。…だからあんま気にすんなよ」





「…輝ってたまに何考えてんのか分かんない所あるよね。謎」





「は!?俺はいつも優しいんです〜」




輝のふざけた口調が、今日は心地良かった。
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